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東京高等裁判所 昭和41年(ネ)565号 決定

申立人 角田長興

右訴訟代理人弁護士 宮本隆彦

松沢宣泰

田辺克彦

田辺邦子

田辺信彦

相手方 鈴木重明

右訴訟代理人弁護士 奥野健一

堀尾和夫

高木右門

石田武臣

名川保男

岡村了一

前嶋繁雄

高橋良喜

主文

本件異議申立を却下する。

理由

本件異議申立の理由は別紙のとおりであり、これに対する当裁判所の判断は次のとおりである。

一  (事実)

次の事実は本件弁論の経過として明らかな事実である。すなわち、

申立人は、標記訴訟事件の昭和五五年九月九日の第五七回口頭弁論期日において、同日付立証趣旨説明書第二項1ないし12摘記の甲号各証(1ないし10はいわゆる角田日記の写し、11は角田元亮、同光五郎の署名にかかる念書、12は家賃地代帳の写し)の記載部分(以下「本件係争記載部分」という。)はいずれも偽造文書として提出するものであると述べ、右甲号各証の立証趣旨を説明した。これに対し、相手方は、本件係争記載部分はすべて真正に成立したものであると述べ、さらに、同年一一月二五日の第五八回口頭弁論期日において、「本件係争記載部分は亡角田元亮、同く及び角田廣、同瑞江、同豊、市川春海の筆蹟である。」旨の証明書である乙第九〇号証を書証として提出すべく、該書証の写しを差し出した。そこで、申立人は、同口頭弁論期日において、昭和五五年一一月二〇日付及び同月二五日付求釈明申立書に基づき、相手方に対し、(一)本件係争記載部分はそれぞれ乙第九〇号証掲記の者のうちなんびとが、いつ記載したものであるか及び(二)相手方は、乙第九〇号証を提出することによって、相手方自ら乙号証として提出している角田日記などの作成名義人の主張を変更する趣旨であるかの二点について釈明すべきことを申し立てた。その後同年一二月二五日の第五九回口頭弁論期日において、相手方は、乙第九〇号証を書証として提出し、裁判長は、申立人の求めた相手方に対する釈明を行うことなく、弁論を終結した(その後、昭和五六年二月六日弁論が再開され、現在審理中である。)。

二  (法律上の判断)

民事訴訟法は、裁判所が当事者の弁論の趣旨を適確に理解し、また、当事者に完全な弁論をさせるため、当事者に対し事実上及び法律上の事項に関し問いを発し、事案の解明を図る措置をとる権限(いわゆる釈明権)を裁判長に与えているが(同法一二七条一項参照)、右権限は、訴訟の審理を適正かつ迅速に行うため裁判所に認められた訴訟の主宰権能としての訴訟指揮権に由来するものであり、裁判長が合議体の代表者としてこれを行使すべきものであるが、これとともに、訴訟当事者も、相手方当事者の陳述の趣旨を確かめたい場合には、裁判長に対し、その点に関する発問を求めること(求問)ができることは同条三項の規定するところである。しかし、前叙釈明権の性質にかんがみれば、相手方当事者の陳述がすでに客観的に明確である場合には、当事者の求問の申立があっても、これに応ずる必要がないことは多言を要しないことである。

これを本件についてみるに、申立人の本件異議申立は、「裁判所」が申立人の求問の申立に応じて相手方に釈明をしないことを不当とする点において、異議の対象を誤った違法があるというべきであり、仮りに本件異議申立が裁判長の当該措置に向けられたものであるとしても、そもそも、本件係争記載部分が主として角田くによって記載され、時に、同人の意思に基づき角田家の他の人々によって記載されたものであること、記載の時期は当該記載事項の日付ころであることは、原審及び当審を通じ、一貫して相手方が主張してきた事項であり、このことは申立人もつとに承知していたはずであって、本件係争記載部分の作成名義人及び作成時期に関する相手方の主張にはなんら不明瞭、不完全ないし矛盾などは存しないこと、乙第九〇号証は本件係争記載部分の作成名義人を具体的に証するため提出されたものであって、相手方が右書証を提出することによって相手方自ら乙号証として提出している角田日記などの作成名義人に関する従前の主張を変更する趣旨でないことは本件弁論の全趣旨に徴し、疑いをさしはさむ余地は毫も存しないのである。それ故、申立人が弁論終結間近の第五八回口頭弁論期日の段階に至って、この点に関する求問を申し立てることはその必要性を欠くものであること明らかであったから、裁判長が相手方に対しなんら釈明をしなかったことは当然であり、この措置が黙示的に申立人の求問申立を却下するものであったとしても、これに対し異議を申し立てることはなんらの理由もないものであるというべきである。

三  (結論)

以上の次第であるから、申立人の本件異議申立を却下することとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 渡部吉隆 裁判官 蕪山厳 安國種彦)

〈以下省略〉

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